ウルシの木に鉈を入れる。
木は思った通りに割れることはない。しかし、割れて現れた断面には、美しい木目が複雑に交錯している。
その一本一本の線維の流れは、雨や風、雪に耐えながら、その木が生きてきた時間そのもののように思える。
樹齢50年ほどのウルシの木を割ったとき、その断面から、約30年前に先人が漆を掻いた傷が現れた。
木は30年という長い年月をかけて、その傷のまわりを新たな線維で覆い、自らを修復していた。
そこに、ウルシの木の強い生命力を感じた。
同時に、一人の人間が木につけた傷が、長い時間を経て木の内側に残り、再び私の前に現れたことに、昔から続いてきた人と自然との関わりを感じた。
木目や節、歪み、そして人が関わった跡。
木を割ることで、初めて見えてくるものがある。
フォトグラファー・石橋謙太郎は、長年にわたり私の制作や作品を撮り続けてきた。
漆を掻く姿、木に鉈を入れる手、制作途中の木や道具、完成した作品。
自分にとっては日々の仕事として過ぎていった時間が、石橋の写真の中には残っている。
それらを見返すと、木の中に時間が刻まれているように、写真の中にもまた、自分が木や漆と向き合ってきた時間の跡形があるように思う。
今回の展示では、その傷を残した木から生まれた作品とともに、石橋が撮り続けてきた写真を展示する。
木に残された時間。
写真に残された時間。
そこに現れた跡形を受け取り、その姿をできるだけ生かしながら、作品へとつなげている。
-本間健司
この度 hide gallery では、10月10日(土)~10月25日(日)の会期にて、本間健司の個展「跡形」を開催いたします。本展は、本間にとって当ギャラリーでは初めての個展となり、ウルシの木を素材に制作を続ける本間の新作とともに、フォトグラファー・石橋謙太郎が長年にわたり記録してきた制作風景や作品の写真を展示いたします。
1974年東京都生まれの本間は、木工轆轤を学んだのち、茨城県常陸大宮市や岩手県二戸市浄法寺で漆林の管理や漆掻きに携わり、2020年の独立以降も漆と木に深く関わりながら制作を続けています。
本間の制作では、漆を掻き終えたウルシの木を鉈で割ることで現れる木目や節、歪みが重要な要素となります。木は人の思惑どおりに割れるわけではなく、その断面には、雨や風、雪に耐えながら生きてきた時間が複雑な線維の流れとして刻まれています。本間は、あらかじめ形を定めるのではなく、木を割ることで初めて現れる姿を受け取り、その特徴を生かしながら作品へとつなげています。
今回、樹齢約50年のウルシの木を割った際、約30年前に漆を掻いた傷が内部から現れました。木は長い年月をかけて傷を新たな線維で覆い、その痕跡を成長のなかに取り込んでいました。そこには、木が生きてきた時間と、人が木に関わってきた時間とが重なっています。
また本展では、石橋謙太郎が記録してきた本間の制作の時間にも目を向けます。木に残された傷や木目、人の手の痕跡、そして写真に残された制作の時間。それらをひとつの「跡形」として捉え、木、人、そして作家の現在が重なり合う姿をご高覧ください。