Mnemosyne Clinic
Yasuhide Kuge
2023.6.10 - 6.25
Mnemosyne Clinic
Yasuhide Kuge
2023. 6.10 (sat) - 6.25 (sun)

「Mnemosyne Clinic」「Tokyo Suggestion」



あるひとがこの「トウキョウサジェスチョン」をみて「私、電車に乗れないんです。この作品をみてピントをあわせないでみていても良いんだって思ってホッとしました。」と言った。

「車に気をつけてね」と返した。

私は、若い頃、電車に乗れなかった時期があるのを思い出した。あの音、あの匂いと人混み。

「トウキョウサジェスチョン」は制作の過程で工事現場の派手な色彩が気になって色彩を抑えたり白黒にしたりと様々な試行錯誤をしていたので、その事が伝わったのが嬉しかった。



私は自分の作品に対する反応に冷淡だった。

写真は事実としてこの世界に存在するものに対する個人の解釈である。

自分が自分の考えで自分の作品を作っているのだから貴方がどうみても自由だけれど、鑑賞者の解釈が制作者のリテラシーを越えることはないと傲慢な勘違いをしていた。



今は違う。

自分の考えは汚染されている可能性がある。

自分の作る作品は作品である以上自分のものではあり得ない。みるひとのものだ。事実という「もの」は解釈によって心の中での置き場所を変える事が出来る。

正しくおく事が出来ないと、生涯にわたって苦しい。

写真の遠近法というのは偏ったカタである。

コラージュもアレブレもボケもアリ。

正しい色空間とは暫定的なものだ。

例え小くても共有できたものは文化的資産だ。



今の私はその年若い友人の言ってくれた事を信じる事ができるし、それを心の支えにする事ができる。

自分を肯定して好きになれる事が嬉しい。

ある理由によって、これが承認の往復だと感じる事ができたからである。

Artist Profile

久家 靖秀

"どのようにして感染した夢の治療ができるのかについてのいくつかの方法" 「Mnemosyne Clinic」は、コロナ禍の2021年に上梓して個展を開催した 「Mnemosyne」(HeHe)と、同年BOOK AND SONSにて開催された「MELFOTO>Mnemosyne」展の最新バージョンです。 久家靖秀は90年代より、戦争と医療ドキュメントに美術批評やコラージュの要素を交差させた写真作品「CLINIC(Chiasme)」シリーズを、 IDEA Magazine、SWITCH、DUNE、花椿、美術手帖、等に発表し、海外でも話題を呼びました。 2002年にはICC「芸術と医学展」の公式撮影を担当しました。 コロナ禍を経験した「Mnemosyne」の新作に「CLINIC」の要素が加わった今回の展覧会を、この機会にぜひご高覧ください。